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山口地方裁判所下関支部 平成6年(ワ)173号 判決 1995年11月27日

原告

島田悟

藤岡正哉

右両名訴訟代理人弁護士

今村俊一

被告

右代表者法務大臣

宮澤弘

被告

山口県

右代表者知事

平井龍

被告両名指定代理人

榎戸道也

品川寿興

小山稔

瀧村剛

山崎秀義

被告山口県指定代理人

吉永邦夫

堀健

山本哲也

立花益美

理由

一  請求原因1の事実はすべて当事者間に争いがない。

二  そこで、本件逮捕・勾留等の違法性(請求原因2)について判断する。

1  本件逮捕状請求書、本件逮捕状及び本件勾留状の被疑事実の要旨が別紙被疑事実の要旨一及び二記載のとおりであり、本件勾留請求書のそれが同要旨三記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  原告らは、本件被疑事実の要旨には原告らが千代田リースとの間の委託信任関係に基づいて本件システムを保管していることの具体的事実が記載されておらず、横領罪の構成要件的特定すらなされていないから、本件令状は違法であり、これに基づく本件逮捕・勾留等もすべて違法であると主張する。そこで、この点を検討する。

(一)  被疑者の逮捕・勾留は、被疑事実の内容を具体的に特定して記載した逮捕状・勾留状に基づいて行われることが必要であるが、それは、被疑事実の内容につき不確定なところがある捜査の初期の段階で行われるものであり、捜査が発展的、流動的なものであることを考慮すると、逮捕状、勾留状の被疑事実の記載は、起訴状における公訴事実や判決における罪となるべき事実とは異なり、ある程度の概括的記載であっても許されるものと解すべきである。刑事訴訟法が、逮捕状・勾留状には被疑事実の「要旨」を記載すれば足りるとしている(同法二〇〇条一項、二〇七条一項、六四条等)のもこの点に配慮したからに他ならない。そうであるとするならば、逮捕状・勾留状に記載すべき被疑事実の要旨は、罪名の記載と相まって、どのような犯罪事実によって逮捕・勾留されるのかが、他の犯罪事実と識別できる程度に記載されてあれば、構成要件的特定としては足り、事実関係のある程度の不確定は許されると解するのが相当である。

横領罪(刑法二五二条一項)は、自己が所有者その他の本権者との間の委託信任関係に基づいて占有する物を不法に領得することによって成立する犯罪であるから、逮捕状・勾留状の被疑事実の要旨にも、罪名の記載と相まって、被疑者が被害者との間の委託信任関係に基づいて保管中の物を不法に領得したことが、他の犯罪事実(例えば、窃盗、占有離脱物横領、別の物に対する横領の事実など)と識別できる程度に記載されていなければならない。そして、かかる委託信任関係は、民法上の契約によって発生するものに限らず、事務管理、慣習、条理ないし信義則に基づくものでもよいと解されているが、前述のような逮捕・勾留の発展的、流動的性格からすると、その被疑事実の要旨には、被疑者による物の占有が何らかの委託信任関係に基づくものであることが一応認識できる程度に記載してあれば、その構成要件的特定としては十分であり、委託信任関係の発生根拠となる具体的事実まで厳格に記載する必要はないと言うべきである。

(二)  これを本件につきみるに、本件被疑事実の要旨には、原告らが本件システムを保管するに際しての委託信任関係の内容が明示されているわけではないが、<1>原告らは本件システムが千代田リースの所有であることを知りながら保管していたこと、<2>大内不動商事は本件システムを千代田リースとの間のリース契約に基づいて使用しており、原告らは大内不動商事の代表取締役山本博から本件システムの引渡しを受けたこと、<3>原告らは本件システムを原告島田方に隠匿して横領したことが記載されているうえ、〔証拠略〕によれば、本件令状の罪名欄には、いずれも「横領」と記載してあることが明らかであるから、これらを合わせて考察すると、本件令状の被疑事実の要旨は、原告らが千代田リースとの間の委託信任関係に基づいて保管中の本件システムを不法に領得した旨を記載したものと理解することができる。そうすると、本件令状の被疑事実の要旨の記載に構成要件的に特定されていることは明らかであって、本件令状が違法であると言うことはできない。

三  以上のとおりであり、本件令状の被疑事実の要旨の記載が構成要件的特定を欠き違法であるということを理由として、本件令状に基づく本件逮捕・勾留等が違法であるという原告らの主張には理由がない。よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川豪志 裁判官 森實将人 上寺誠)

被疑事実の要旨一

被疑者島田悟は、藤岡正哉と共謀のうえ、平成四年一二月四日ころ、有限会社大内不動商事代表取締役山本博から、同人が千代田リース株式会社とリース契約を締結して使用中の「光ファイリングシステム一式」(時価三〇〇万円相当)の引渡しを受け、これを右千代田リース株式会社が所有しているという情を知りながら、山口市駅通り一丁目三番一六号所在有限会社祐徳事務所等において保管中、平成五年一月上旬ころ、ほしいままに、右光ファイリングシステムを山口市駅通り二丁目五番一七号メゾン・ド・アルカディア七〇四号の被疑者島田悟方に隠匿して横領したものである。

被疑事実の要旨二

被疑者藤岡正哉は、島田悟と共謀のうえ、平成四年一二月四日ころ、有限会社大内不動商事代表取締役山本博から、同人が千代田リース株式会社とリース契約を締結して使用中の「光ファイリングシステム一式」(時価三〇〇万円相当)の引渡しを受け、これを右千代田リース、株式会社が所有しているという情を知りながら、山口市駅通り一丁目三番一六号所在有限会社祐徳事務所等において保管中、平成五年一月上旬ころ、ほしいままに、右光ファイリングシステムを山口市駅通り二丁目五番一七号メゾン・ド・アルカディア七〇四号の島田悟方に隠匿して横領したものである。

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